こんにちは!東京若手演劇祭実行委員の加藤月奈です。
もう8月も終わりが近づいていますが、まだまだ暑い日が続きますね。
そんな”熱い、若い、夏”な東京若手演劇祭2021にピッタリな気温の中、参加団体の『潮汐ロック』さんの稽古場にお邪魔してきました。
某学習センターの2階。お知らせいただいた部屋の前に立つと、ささやかながら賑やかな声が聞こえてきます。
私の緊張はそこでMAXでしたが、意を決して入室!すると皆さんにこやかに「こんにちは〜〜!」
ザ・会議室という感じでテーブルが丸く配置してあり、皆さん和気藹々と雑談に花を咲かせていました。
しかし、よく耳を澄ますと「台本を刷らないと」「あそこで刷ると高いからうちで・・・」「蓄光テープ(*1)いる?」など団体のリアルな会話も聞こえてきます。
今日は衣装合わせを行うようで、役者の方々が次々と着替えに出て行きました。
戻ってきた役者の方々は明るい女子高生「美里亜」(役/酒井まりあさん)、ワイシャツ姿の男性「早川」(役/小原春日さん)、綺麗で大人びた女性「瑠璃(役/増田悠梨さん)」、無垢そうな少女「有紗」(役/井沢比奈乃さん )・・・今回物語を紡ぐ彼彼女らになる一歩前の姿をチラ見せ。
着替え終わったところで早速衣装へ意見が飛び交い始めました。
女子高生の衣装はリュックまで用意!役者さんの私物のようで、自然な使用感があります。男性はネクタイを外し少し着崩したスタイルへと。これだけでグッとナチュラルさが。
お次は女性のイヤリングの選定に入ります。白っぽい衣装が多いので、アクセントととなるようなイヤリングを選択したようです。ご観劇の際にはイヤリングに注目!
少女はズボンに問題があるよう。今日の帰りに新しいズボンを買うことになりました。
そこで驚いたのが、すぐに「某ブランドの○○というズボンが一番いいね」と超具体的な意見が上がったこと。普段から演劇人の目線を持って生活をしていることが伺えました。
それぞれの変更点はとても細かいのですが、どんどんリアリティを増していき、登場人物たちに血が通っていきます。
衣装合わせが終わった後、いよいよ稽古に移ります。脚本のシン・タニシさんが今日の稽古をするシーンを伝え、役者さんはたちそれぞれ発声練習を開始します。
そんな中、突如アルバイトの面接に来た女子高生と店長の寸劇(?)が始まったりと楽しげな空気は変わりません。衣装に着替えるとついつい遊んでしまうのが役者の性かもしれませんね(笑)
全ての準備が整い、シーン開始の合図が響き渡ります。
雰囲気は一変。シリアスな空気が漂い、細やかですが透き通るM.E(*2)の中、登場人物となった彼らの声が聞こえます。ただの会議室だった世界が、たちまち物語の片隅へと変貌したようです。
劇中では会話はもちろん、独白のシーンも多いようです。会話をしているときのラフで自然な声色と観客にストンと落ちてくる独白の声色の使い分けに驚きました。
あっという間にワンシーンが終わると、台詞のタイミングやニュアンス、動作、動線など細やかな指示がタニシさんから入ります。
また、プロジェクターの切り替えとM入り(*3)のタイミングの確認も同時並行で行われます。プロジェクターの切り替えタイミングは台詞、役者さんの動き、など様々なものを合図とするようです。覚えるだけで一苦労。舞台で起こる一挙一動に神経を巡らせます。
そんな緻密な確認作業の傍ら、まだ出番ではない役者さんたちはひたすら台詞の練習をしています。それぞれの台詞を同時に練習しているので、まるで電話をしているように感じます。多くの雑音中でも役に入り込み、繰り返し練習をしている姿に圧倒されました。
しかし常に厳格な雰囲気が漂っているかと思えばそうでもなく、NGシーンでは ちょっとしたボケが挟まったり、、、、メンバーの信頼関係と仲の良さが伺えます。こんな演劇ユニットに私も入りたい、、、、(笑)
今回稽古したシーンは4つほど。どのシーンも魅せられました。ぜひ観客席でじっくり観劇したいです。
稽古がひと段落したところで、休憩中のタニシさんにいくつか質問をさせていただきました。
加藤「潮汐ロックの歴史、結成秘話について教えてください!」
タニシさん「僕の大学には演劇サークルがたくさんあるんです。でも、サークルに属するとそこの中で完結してしまうというか・・・もっと垣根を越えて活動したいと思って僕が潮汐ロックを立ち上げました。」
加藤「メンバーはどういった方が多いのですか?」
タニシさん「実はメンバーはほとんど大学の違うサークルに所属している人ばかりなんです。その中でも特に波長が合い仲良くなった人に来てもらっています。」
加藤「今回東演祭2021に参加しようと思ったきっかけは?」
タニシさん「基本大学の劇場で公演をしているのですが、大学の外にも活動を広げたいと思い、参加しました。」
加藤「今回の公演はどういった作品ですか?」
タニシさん「ちょっとSF調の作品です。演劇の良さは、劇場に入ることで非日常を体験できることだと思っています。潮汐ロックの作品は日常と非日常が溶け合うようなものが特色で、今回の作品もそんな潮汐ロックらしい作品です。」
加藤「最後に一言お願いします」
タニシさん「観劇後、深い余韻を味わっていただければ幸いです。」
お話を聞いてびっくりしたのが、たくさんある大学の演劇サークルから相性の良いものを選んで活動するのではなく、自ら演劇ユニットを立ち上げたことです。
すでにある団体に入ることと、団体を立ち上げること。もちろん前者には前者の苦労があると思いますが、単純な労力としては後者の方が圧倒的に大きいと思います。その立ち上げた理由も一つの枠におさまらず、垣根を越えて活動していきたいという志も演劇に対する並々ならぬ情熱を感じました。
また、タニシさんだけでなく、メンバーの方々も所属しているサークルだけに留まらず潮汐ロックとして活動しているところを省みるに、”潮汐ロック”という団体自体が向上心と様々な経験を積みたいというハングリー精神の塊なのだと感じます。
自分の話で恐縮ですが、私は1年生から2年の春、2年生の夏から3年生の冬までそれぞれ違うサークルに所属していました。2つのサークルを体験した時、それぞれサークルの持つ活動への想いだったりメンバーの傾向が全く違い、驚いたことがあります。
同じ”演劇団体”だとしても、それぞれ違う志を持っています。同じ団体にずっと所属していると団体やメンバーへの愛着ゆえに客観視することがどうしても難しくなります。そういう時に別の団体との交流をしたり、思い切って別の環境に自分を置いたりすることによって自分に足りないものを自覚しやすくなります。東演祭2021はそのために団体の橋渡し的な役割を目指しているので、様々なサークルに所属しているメンバーから成る『潮汐ロック』は東演祭2021の精神と合致しているのではないでしょうか。(なんて勝手に言っちゃった)
まだまだ結成まもないようですが、探究心と意欲はたっぷり!
そんな潮汐ロックさんの『Re : Prologue』。ぜひご観劇ください!
(*1)蓄光テープ・・・・明るい時に光を溜めて暗闇で光るテープのことで、役者が暗転時にセンターや立ち位置を確認するために使われます。
演劇関係者は観劇側でも暗転時にはこの蓄光テープを探してしまうのがあるあるだったり?
(*2) M.E …. 音楽効果(Music・Effect)の略。劇中に流れるBGMのようなもの
(*3)M入り …. M.Eがかかるタイミングのこと
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