自分たちの作品は、エンターテイメントだと思って作っている 8月の上旬、名前はない劇団のメンバーが集った稽古場では、セリフの間合いや言い方に至るまで、細かな調整が行われていました。過去作品の再演だという名前はない劇団の今作で描かれるのは、大学生たちの、等身大な恋愛模様です。
この日中心に稽古していたのは、物語冒頭の音楽とセリフを合わせていく場面。 「あと一拍遅かったな」 「少しリズムが遅れている気がする」…… 気が遠くなるような繊細な稽古ですが、回数を重ねるごとに役者たちは着実にその感覚をつかんでいきます。
性愛や恋愛の中で揺れ動く感情、青年期に胸の中に湧き上がってくる自問自答。学生生活の中で起きるような日常の中に潜む非日常を、丁寧に描いていく本作。大学生のリアルな恋愛をテーマにした作品には、同年代の観客も多く共感するポイントがあるのではないでしょうか。 「目」 と 「耳」 を、フル稼働させたい。 稽古の中盤では演出の伊藤セナさんによる演劇のワークショップも行い、伊藤さんの演出に対するこだわりを聞くことができました。 人間は視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の五感を持つといいますが、観劇をするときに主に刺激されているのは、セリフや会話を聞く聴覚に、表情や体の動きを見る視覚、この二つなのだと伊藤さんは言います。 「基本的には、(観劇中、観客に)目と耳をフル稼働させたいのね。人間、飽きちゃうんだよ。目だけの劇とか、耳だけの劇とか。……(中略)……だから、目と耳の両方をずっと稼働させ続けるっていうのが、人間を集中させるコツなのよ。」 「……(中略)……何か言葉を伝えたいってなった時には、「目」をなくしてあげる。そうやって動きが止まると、あ、ここは大事なんだなって聞いてくれるのね。みんなが。 逆に何かこの動きを見せたいってなった時には「耳」をなくしてあげる。 だから例えば、チューするときって、「チュー」ってチューするよりは、そっと無音の中でキスしたほうが、映えるんだよね。みんながそこを見るから。」
演出、伊藤さんの話を真剣に聞く役者たち。 稽古で演出から飛ばされる細かなニュアンスの違いへのダメ出しにも必死に食らいつき、わずか一分に満たない場面の調整を、1時間ほどもかけて繰り返し繰り返し稽古していた様子からは、 役者の技量もさることながる、役者と演出との間の絶対的な信頼感が垣間見えたのでした。 等身大な物語を描く会話劇の中に、目も耳も惹きつけられる演出の仕掛けが沢山込められた名前はない劇団『濃藍』。ぜひ劇場にて、お楽しみください。
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東京学生演劇祭 Aブロック 参加作品
名前はない劇団『濃藍』
2019年
9月5日(木)19:00開演
9月6日(金)15:00開演
9月7日(土)11:00開演
9月8日(日)19:00開演
@花まる学習会王子小劇場
*名前はない劇団扱い予約フォーム
https://www.quartet-online.net/ticket/tstf2019?m=0mggdhc
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