講評
友田健太郎 氏より
総評
9団体の作品を見せてもらったが、40分という限られた時間の中に各団体の豊富なアイディアが盛り込まれ、実に見ごたえがあった。事前に思っていたよりもはるかに充実した内容で、お客さんの反応もよいと感じた。
東京にいくつ学生劇団があるのだろうか、数えきれないほどあるだろうが、友達や知り合い以外の観客を惹きつけている団体は少ないだろう。東京学生演劇祭は、より広範な観客に自分たちが培ってきた表現がどこまで通用するのか腕試しをしたい劇団、注目を集めたいユニットにとって、大きなチャンスとなるイベントだと思う。今回の成果を見ても、今後より多くの劇団が参加し、日本の演劇界の登竜門の一つとなっていくのではないかと楽しみに感じた。
学生とはいうものの、評価を得るには学生の枠を超えることが必要だ。今回も「学生ならではの良さ」を感じた団体もあったのだが、共感はしても最終的に高い評価を与えるには躊躇せざるを得なかった。その点は高校演劇とは大きく異なる。演劇のような芸術だけでなく科学・スポーツなどあらゆる分野で学生は第一線の働きを求められている。今後出場する団体にもその自覚はぜひ持ってほしい。
そのためには、東京で見られる内外の演劇をはじめ様々な先鋭的な表現に触れ、貪欲に吸収するととともに、自分の問題意識、表現欲求を見極め、それを世界にも通用する高水準で舞台上に出現させるための方法を追求してほしい。
今は無名の学生であっても、舞台での表現さえ優れていれば、すぐに世界への扉が開くのが演劇である。果敢に挑戦してください。健闘を祈ります。
A-1劇団リトルスクエア『様子の展開劇場』
前半の同時多発会話が面白かった。ある会社の給湯室に男女9人が出入りし、最高で4組が同時に会話する。どれか一つの会話が重要ということはなく、同時に進む会話自体を聞かせる。雑然とした現実をそのまま提示するかのような手法には魅力を感じた。だが、先輩が後輩を平手打ちしたり、突然、再来週この会社がつぶれるという情報が提示されたりする後半の展開が唐突に感じた。後半にも特に意味はないのだが、前半よりも感情をかき乱す要素が多く、もやもやとしたものが残った。
A-2 なべ☆ほし企画『片付け(仮)』
引きこもりを続ける男性のもとに従妹の女性が居候にやってくる。潔癖症でモノの配置などを変えられるのが耐えられない男性に対し、女性はモノと対話できると言い、場所などを勝手に変えてしまう。極端な性格付けをした2人の登場人物の衝突が展開されるコメディ。気持ちよく楽しく見られる作品だったが、ややインパクトに欠けた。アイディアにしても、演技・演出にしても突き詰めたものがなく、他団体の演目の中に埋没してしまった。
A-3 亜人間都市『神(ではない)の子(ではない)』
果敢な実験精神を感じた作品。ある女性の妊娠を巡り飛び交う人々の言葉で構成された作品。ぎくしゃくとした身体の動きと言葉のずれ。登場人物は最初から舞台上の位置が決まっており、基本的にその場を離れない。天井からひもにつながれて降りてくる小道具など様々な手法が用いられているが、全体に単調に感じ、また身体の動きの面白さにばらつきがあった。作品の内容や演出が一定の高い水準に達していることは明らかなので、今後も模索を続けて行ってほしい。
B-1 くらやみのいろ『胎児の夢』
白い衣装をまとった9人の男女が、人間が生まれる前の空間と思われる場所を舞台に、生まれること、性、自由などを主題にしてパフォーマンスを展開する。セリフのほとんどないダンスに近い作品で、洗練された美しさがあった。作り手の中では一つ一つの場面に意味があったのではないかと思ったが、それがこちらに伝わってこなかった。作り込むほど観客との距離が広がる悪循環にはまっていたのではないか。観客が作品を理解する手がかりになるものが少なかった。
B-2 晩餐ヒロックス『19年、或いは20年前。
精子が放出されてからの出来事を擬人化した。白い衣装を身にまとった精子たちが厳しい競争を経て少しずつ脱落していく物語となっている。脚本、演出、演技やスタッフワークが行き届き、とてもレベルの高い作品だった。演劇の世界でプロになることを見据えて活動していることがうかがえる。その一方、既存の価値観への疑いや問いかけはなく、審査員の評価は辛くなった。だが、卒業後、努力次第でいくらでも活躍できる人だと思うので、審査員の評価など下に見るつもりで我が道を突き進んでいってほしい 。
B-3 しょっきんぐパズル『かじつノヨウナモノ』
脚本、演出、演技などに難が目立ったが、作品に込められた切実な思いは胸を打った。「こんな友達がいたらどんなにいいだろう」という作り手の思いがそのまま伝わってきて、感動させられた。それだけでも演劇として大きな達成である。誇りを持ってほしい。この作品を作り上げたことが、作り手たちの今後の人生に何らかの支えになるといいと思う。細部に不思議な間やずれの感覚が盛り込まれており、日常に疑問を持ちながら生きている作り手の感覚が好ましかった。
C-1 the pillow talk『腰抜けは道徳と遊んでろ』
脚本が抜群に面白く、クール。前半の説明セリフはもたついたが、話が転がりだしてからは一気呵成だった。五人兄弟のくすぶったエネルギーが破滅へと向かうビジョンの明確さにはワクワクする魅力があった。冒頭の五人いっせいの喫煙シーンには度肝を抜かれた。喫煙への風当たりは強くなる一方で、実際数人の観客が席をたったが、この場面が作品に必要だという判断は正しかったし、観客に嫌われることを知った上であえて挑戦したことは評価したい。
C-2 水 道代払いたい『せかいのはじめ』
一人芝居だが、時間や空間を自由に行き交い、メタの視点を組み込んだ重層的な構造で、学生らしい冒険心の感じられる作品だった。ドキュメンタリーの要素を導入し、舞台の上にある俳優の身体を観客にまざまざと意識させる工夫が随所にあって、見ごたえがあった。例えば、俳優が「いま本番中で」というようなことを口にするが、見ている自分も舞台の上で本番中のような気がして、どきどきさせられた。ほかにもはっとする瞬間は多かった。
C-3シラカン『永遠とわ』
斬新な個性を持つ高水準の脚本、演出。魅力的な俳優の演じるキュートな登場人物たち。舞台装置や衣装もセンスがいい。やや病的なまでの極端な性格を持つ男女3人の登場人物の関係が目まぐるしく変わっていく様子をあくまでポップに展開した。3人の性格を描写するセリフの切れがよく、本当におかしかった。総合的な作品の質が高く、どこから見ても堂々たる一線級の実力なのに、今回が初めての学外公演だというのには驚いた。今後の小劇場界の台風の目になることを期待したい。